| *第三章-歯車-
湖…? 辺りは樹木で鬱蒼としているのに、そこだけ不思議な程静かで碧い。 開けた視界に、綺麗で透き通った水が煌めく。 そこに、この世の物とは思えない程美しい女性が座り込んでいる。 余りに美しい光景に見惚れていると、女性が静かに立ち上がりこちらを振り返った。
(…い!…おいテリエ!…)
テリエ『ん、んんん…?』 聞き慣れた声で目が覚めた。 シメン『ったく…いつまで寝てんだよ、今日は出掛けるって、前に言ったろ?』 ベッド際にある窓に、シメンが肘をついている。 テリエ『あ、あぁ、うん』 起き上がると、目の前の時計が目に付く。 1時をさしている、シメンが怒るのも無理は無い。 急いで準備をしなくては。 床に放られているくしゃくしゃになったベストを羽織ると、 玄関まで歩き、少し大振りなブーツに足を突っ込む。 テリエ『よしッ!』 ドアに手をかけるテリエに、テーブルの上を指してシメンが言う。 シメン『それ、忘れたら行く意味ねーだろ?』 すっかり忘れていた、テーブルの上に置かれた紙幣を握り締めると再びドアを開ける。
あの不思議な男に出会ってから3日が経った。 今日は彼から預かった紙幣で必要な物を揃えに行くのだ。
テリエ『ごめんごめんっ!』 ブーツのつま先で地面をトントンと突きながらテリエが出てきた。 シメンは待ちくたびれた様子で、腕を組みながら壁に寄り掛かっている。 シメン『ったくー、急いで行くぞ』 2人はすぐにあの店に向って走り出した。
(ガチャッ、チャリーン♪)
ヨナタン(店員)『いらっしゃ〜い』 緑色の長髪。いかにも面倒くさそうに仕事をしている…20歳くらいだろうか。 その男を見つけると、カウンターまで駆け寄る。 シメン『あの、これで買える物って…』 そう言いながら、紙幣を一枚取り出す。 ヨナタン(店員)『うぅ〜ん…』 相変わらずの面倒くさそうな表情で、それを見つめている。 少し考え、言った。 ヨナタン(店員)『そこの胸当てと、あと…そこの短剣くらいかなぁ』 テリエの後ろを指して言う。 少し錆びているが、十分使えそうだ。 シメン『2つずつ下さい』 すぐに答えると、テリエとシメンは1枚ずつ紙幣を差し出した。 ヨナタン(店員)『はぁいよ』 慣れた手つきでそれらを紐で縛っている。 縛り終わると2人の肩に掛けた。 (ガチャッ、チャリーン♪) ヨナタン(店員)『まいどぉ〜』 抜けた声に押されて、店を出る。 肩の紐を掛けなおし、歩き出そうとした時だ。
『よっ!』
どこかで聞いた声だ。 振り返るとハーコンセンが立っていた。 テリエが重そうに担いでいる荷物を見て言った。 ハーコンセン『やーっとやる気んなったみたいだなァ』 実に嬉しそうだ。 その表情に少し戸惑い、テリエが答える。 テリエ『これ、買ったは良いけど…この後はどうしたら良いか…』 困惑するテリエの肩を叩いて言った。 ハーコンセン『まぁついてこいよっ』 まるで、用意されていたかのような流れだ。 しかし、ついて行く他の選択肢は無い。 再び紐を掛けなおし、彼の後につく。
細く入り組んだ裏道を暫く歩くと、 「BURTON」と書かれた小さな看板と、地下へ続く階段が現れた。 その前で止まると、更にその狭い階段を下っていく。 そして突き当りにある黒いドアを勢いよく開けた。
???『誰だぁ?』 図太い声にビクっとする。 ハーコンセン『俺だよ、買出しに行っていた』 肩から荷物を下ろしながら、ハーコンセンが答える。 ???『ハーコンセンか。ご苦労さん』 ハーコンセン『いえいえ。それと、ついでに』 テリエとシメンをその男の前に突き出すと、続けた。 ハーコンセン『入団希望者を2名連れてきた』 顔を上げると男と目が合った、ゴールドの綺麗な目をしていて、 銀色の短髪に、ひげも少し生えている。 皮張りの大きな椅子に座ったまま、男は喋りだした。 セス『俺はセスだ。お前ら、名前は』 ハーコンセン『その赤い髪のチビがテリエ、青いのがシメンだ』 答えようとしたが、ハーコンセンの方が早かった。 名前に然程興味は無かったのか、聞き流すかのように続けた。 セス『はん、よろしくな。さっそくだが「BURTON」について説明しておく』 男は葉巻にマッチで火をつけると、話し出した。
この街には、同じ志を持った者が集うギルドなる集団が存在する。 目的はその集団によって個々別々で、 宗教染みたものから正義や悪を掲げるものまであり、規模もピンキリだ。 その総数は、非公認の集団を含めれば20近くある、うちもその1つだ。 そして我々の目的は、この街の住民の保護、平たく言えば用心棒だ。 一言に言ってもそれは様々で、 報酬を頂いて護衛に出向く事もあれば、モンスターの退治も請け負う。 時には人殺しの代行の依頼もある。 まぁ、簡単に言えば何でも屋みたいなもんだ。
そこまで言い終えると立ち上がり、続けた。 セス『だが甘いもんじゃねぇ』 彼の腕には深い傷が目立つ、その「用心棒」とやらで負った傷だろうか。 セス『この1年間で3人仲間が死んでんだ、ガキに務まるかどうか…』 男が言いかけると、テリエが初めて口を開いた。 テリエ『でも俺達、やってみたいんだ…』 続けてシメンを言う。 シメン『怖かったけど、今は違う』 それを聞くと、セスは声を上げて笑い、満足そうに言った。 セス『ハーコンセンが引き抜いてきただけはあるな!』 更に2人を見おろし、一呼吸おいて続けた。 セス『奥だ、荷物は置いていけ!』
2人は、腰に長剣を携えた屈強なその男の後を追い、更にアジトの奥へ入っていく。
To be continue |